万年筆にも使える顔料インクの、 セーラー「極黒」とプラチナ「カーボンインク」の、耐水性を比較しました。
(※「カーボンインク」ですと、他の商品でもありそうであまりピンと来ないので、 以下、「プラチナカーボン」と表記します。)
まずは、普通に書いた文字。 上が「極黒」で、下が「プラチナカーボン」、 紙はアピカのノートで、Twitterの手書きツイート用に書いたものです。

「極黒」の左の4~5文字が白っぽくなっていますが、 これはインクが光を反射しているためです。 斜めからアップで撮ったのが、こちら。

「極黒」はよく光ります。 撮影の角度が揃っていないですが、実物で見てもこんな感じです。 「極黒」は、いかにも粒子が紙の上に載っているような質感で、 インク名を聞かされずに、ある店員さんの万年筆を書かせていただいた時、 開口一番に、「これって顔料ですか?」と聞いたくらいです。 「プラチナカーボン」の方は、目を凝らして見ても、殆ど光っていないです。 ただし、光沢があるという声も聞きますから、紙によるかもしれません。
さて、肝心の耐水性! 顔料と聞くと、期待してしまいますね。 絵を描く人間にとっては、水彩で使えるかどうかが気になるので、実験です!
先ほどの文字を、水を含んだ筆で、あまり力を入れずに10往復なでました。

なでた部分の拡大写真です。

「極黒」の方がよく溶け出しました。 「プラチナカーボン」も、完璧な耐水性は無いようです。 とはいえ、両方とも文字自体は滲まずに、くっきりしています。
乾かすと、こうなりました。

「極黒」は、溶け出した跡が黒っぽく残りました。 (撮った角度が悪く、全体的によく光ってしまいました…。) 「プラチナカーボン」も、どこを筆で濡らしたのか、うっすら分かりますね。 ただ、このくらいでしたら、濃い色で着色するなら、目立たないかもしれません。
「プラチナカーボン」だけ、もう1つ画像があります。
実験中、たまたま水を1滴落としてしまいまして、 こすらなくても溶け出しているように見えたんですが(左)、

そのままそーっと乾かしたら、全く跡が残りませんでした(右)。 今、改めて「ボ」の部分を見ても、全く分かりません。凄い!
これらのことから総合すると、 ・絵筆でできるだけ擦らないようにする ・着色には、ある程度濃い色を使う のであれば、「プラチナカーボン」は、水彩の線画に使えそうです!
で、実際に描いてみたのが、前回の記事です。 原画で見ても、黒インクが溶け出しているようには見えません。 これなら使える!というのが、私の結論です!
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…と書くと、「極黒」はだめ、と言っているように思われるかもしれませんので、補足です。
万年筆は、メンテナンスをすることで、とても長く使える筆記具です。 顔料インクを入れるということは、 うっかり放置して乾いてしまった時に、水で落ちないということです。 万年筆が詰まってしまって、ダメにしてしまう危険性が高いのです。
水で溶け出しやすい「極黒」は、メンテナンスの上で優れていると言えます。
また、普通は文字を書くものですから、 原稿用紙にお茶をこぼしたり、ハガキが雨で濡れたりした場合に、 染料インクみたいにぐちゃぐちゃにならなければ、十分です。 完璧な耐水性なんて無くてもよいんですね。 「極黒」の方がよいケース、「極黒」の耐水性で十分なケースも、多々あるのです。
一方で、「プラチナカーボン」は、洗浄剤が発売されています。 水で落ちなくて困るなら、薬品で洗えるようにしよう、という考え方ですね。 どのぐらいの洗浄効果があるかも、実験結果がHPに掲載されていました。
プラチナ:「インククリーナーキット」商品紹介 http://www.platinum-pen.co.jp/ink_top.html#ink_cleaner_kit
プラチナ:「インククリーナーキット」の洗浄効果の実験結果 http://www.platinum-pen.co.jp/ink_cleaner_top_spec.html
また、「スリップシール機構」を搭載した万年筆であれば、 キャップさえ閉めていれば、ペン先が乾きにくく、顔料でも安心して使えるようです。 (噂によりますと、PILOTやセーラーのも、同じくらい乾かないみたいですが。 私も実際PILOTの万年筆を使っていて、カスタムヘリテイジ91など、 ネジ式キャップの気密性は、とても優れていると感じています。)
前回の記事のイラストに使ったのは、プラチナの「カーボンペン」です。 「プラチナカーボン」専用のデスクペンですね。 ネジ式キャップでなくても、さすが専用! 1週間使わなくても、書き出しが全く掠れません。 使い始めの頃に、1度だけ掠れたことがありますが、 その後馴染んだみたいで、今では全く乾く気配がありません。
ただ、作りが若干ゴニョゴニョ…なところがありまして、 もう使い始めて1年弱になるのですけれど、 ボタ落ち(ペン先からインクが1滴垂れた)が2回、 ボタ落ち未遂(危ないと気が付いて、ペン先を上にしてトントン叩いたら、 空気が抜けて事なきを得た)が6~7回あり、 書き味も、上の画像中にも書いている通り、 ガリガリして、紙の繊維によく引っかかりました…。 ペンクリニックに持ち込んで、ペンドクターさんに調整していただいて、 随分と改善されましたが。
というわけで、どちらの顔料インクをどの万年筆で使うのがよいかは、 結局は、使う人が何に重点を置くかによりますね。 万が一のことを考えると、修理や補償の対象外にならないように、 同じメーカーの万年筆に入れるのが安心です。
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